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 『星あかり』 泉鏡花を読む

 碧潮金砂、昼の趣とは違つて、霊山ヶ崎の突端と、小坪の浜でおしまはした遠浅は、暗黒の色を帯び、伊豆の七島も見ゆるといふ蒼海原は、さゝ濁に濁つて、果なくおつかぶさつたやうに堆い面は、おなじ色に空に連つて居る。浪打際は綿をば束ねたやうな白い波、波頭に泡を立てゝ、だうと寄せては、ざつと、おうやうに、重々しう、翻ると、ひた/\と推寄せるが如くに来る。これは、一秒に砂一粒、幾億万年の後には、此の大陸を浸し尽くさうとする処ので、いまも、瞬間の後も、咄嗟のさきも、正に然なすべく働いて居るのであるが、自分は余り大陸の一端が浪のために喰缺かれることの疾いのを、心細く感ずるばかりであつた。

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