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 『古狢』 青空文庫

 唾《つば》と泡が噛合《かみあ》うように、ぶつぶつと一言《ひとこと》いったが、ふ、ふふん、と鼻の音をさせて、膝の下へ組手のまま、腰を振って、さあ、たしか鍋《なべ》の列のちょうど土間へ曲角の、火の気の赫《かっ》と強い、その鍋の前へ立つと、しゃんと伸びて、肱《ひじ》を張り、湯気のむらむらと立つ中へ、いきなり、くしゃくしゃの顔を突込《つっこ》んだ。
 が、ばっと音を立てて引抜いた灰汁《あく》の面《つら》と、べとりと真黄色《まっきいろ》に附着《くッつ》いた、豆府の皮と、どっちの皺《しわ》ぞ! 這《は》ったように、低く踞《しゃが》んで、その湯葉の、長いを、目鼻もなしに、ぬっと擡《もた》げた。

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