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 『婦系図』 青空文庫

「そこから、お座敷へどうぞ……あの、先刻はまた、」と頭《つむり》を下げた。
 寝床はその、十畳の真中《まんなか》に敷いてあった。
 枕許《まくらもと》に水指《みずさし》と、硝子杯《コップ》を伏せて盆がある。煙草盆を並べて、もう一つ、黒塗金蒔絵《きんまきえ》の小さな棚を飾って、毛糸で編んだ紫陽花《あじさい》の青い花に、玉《ぎょく》の丸火屋《まるぼや》の残燈《ありあけ》を包んで載せて、中の棚に、香包を斜めに、古銅の香合が置いてあって、下の台へ鼻紙を。重しの代りに、女持の金時計が、底澄んで、キラキラ星のように輝いていた。

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