検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 枕許《まくらもと》に水指《みずさし》と、硝子杯《コップ》を伏せて盆がある。煙草盆を並べて、もう一つ、黒塗金蒔絵《きんまきえ》の小さな棚を飾って、毛糸で編んだ紫陽花《あじさい》の青い花に、玉《ぎょく》の丸火屋《まるぼや》の残燈《ありあけ》を包んで載せて、中の棚に、香包を斜めに、古銅の香合が置いてあって、下の台へ鼻紙を。重しの代りに、女持の金時計が、底澄んで、キラキラ星のように輝いていた。
 じろりと視《なが》めて、莞爾して、蒲団に乗ると、腰が沈む。天鵝絨の括枕《くくりまくら》を横へ取って、足を伸《のば》して裙《すそ》にかさねた、黄縞《きじま》の郡内に、桃色の絹の肩当てした掻巻を引き寄せる、手が辷って、ひやりと軽《かろ》くかかった裏の羽二重が燃ゆるよう。

 2703/3954 2704/3954 2705/3954


  [Index]