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 『薬草取』 青空文庫

 花売《はなうり》は籠《かご》を下《おろ》して、立休《たちやす》ろうていた。笠を脱いで、襟脚《えりあし》長く玉《たま》を伸《の》べて、瑩沢《つややか》なる黒髪を高く結んだのに、何時《いつ》の間にか一輪の小《ちいさ》な花を簪《かざ》していた、褄《つま》はずれ、袂《たもと》の端、大輪《たいりん》の菊の色白き中に佇《たたず》んで、高坂を待って、莞爾《にっこ》と笑《え》む、しく気高き面《おも》ざし、威《い》ある瞳に屹《きっ》と射られて、今物語った人とも覚えず、はっと思うと学生は、既に身を忘れ、名を忘れて、唯《ただ》九《ここの》ツばかりの稚児《おさなご》になった思いであった。

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