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 『婦系図』 青空文庫

 と云う。襖を閉めて肩を引いた。が、幻の花環一つ、黒髪のありし辺《あたり》、宙に残って、消えずに俤に立つ。
 主税は仰向けに倒れたが、枕はしないで、両手を廻して、しっかと後脳を抱いた。目はハッキリと〓《みひら》いて、失せやらぬその幻を視めていた。時過ぎる、時過ぎる、その時の過ぎる間に、乳が長火鉢の処の、洋燈《ランプ》を消したのが知れて、しっこは、しっこは、と小児《こども》に云うのが聞えたが、やがて静まって、時過ぎた。

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