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『婦系図』
青空文庫
やおら、手を伸して紫の影を引くと、手巾はそのまま手に取れた。……が菫には根が有って、襖の合せ目を離れない。
不思議に思って、蝶々がする風情に、手で羽のごとく手巾を揺動かすと、一寸《すん》ばかり襖が……開……い……た。
と見ると、手巾の片端に、紅の幻影《まぼろし》が一条《ひとすじ》、柔かに結ばれて、夫人の閨に、するすると繋《つなが》っていたのであった。
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