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 『婦系図』 青空文庫

 菫が咲いて蝶の舞う、人の世の春のかかる折から、こんな処には、いつでもこの一条が落ちている、名づけて縁《えにし》の糸と云う。禁断の智慧《ちえ》の果実《このみ》と斉《ひと》しく、今も神の試みで、棄てて手に取らぬ者は神の児となるし、取って繋ぐものは悪魔の眷属《けんぞく》となり、畜生の浅猿《あさま》しさとなる。これを夢みれば蝶となり、慕えば花となり、解けばしき霞となり、結べば恐しき蛇となる。

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