検索結果詳細


 『海神別荘』 華・成田屋

公子  貴女の父は、もとの貧民になり下るから娘を許して下さい、と、その海坊主に掛合ってみたのですか。みはしなかろう。そして、貴女を船に送出す時、磯に倒れて悲しもうが、新しい白壁、艶ある甍を山際の月に照らさして、夥多(あまた)の奴婢(ぬひ)に取巻かせて、近頃呼入れた、若い妾に介抱されていたではないのか。なぜ、それが情愛なんです。
女  はい。・・・(恥じて首低(うなだ)る。)
公子  貴女を責るのではない。よしそれが人間の情愛なれば情愛で可い、私とは何の係わりもないから。ちっとも構わん。が、私の愛する、この宮殿にある貴女が、そんな故郷を思うて、歎いては不可(いか)ん。悲しんでは不可んと云うのです。

 274/369 275/369 276/369


  [Index]