検索結果詳細


 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 さればとて、これがためにその景勝を傷《きずつ》けてはならぬ。大崩壊《おおくずれ》の巌の膚は、春は紫に、夏は緑、秋はに、冬は黄に、藤を編み、蔦を絡《まと》い、鼓子花《ひるがお》も咲き、竜胆《りんどう》も咲き、尾花が靡けば月も射す。いで、紺青《こんじょう》の波を踏んで、水天《すいてん》の間に糸の如き大島山に飛ばんず姿。巨匠が鑿を施した、青銅の獅子の俤あり。その美しき花の衣は、彼が威霊を称えたる牡丹花《ぼたんか》の飾に似て、根に寄る潮の玉を砕くは、日に黄金《こがね》、月に白銀《しろがね》、あるいは怒り、あるいは殺す、鋭《と》き大自在の爪かと見ゆる。

 27/1510 28/1510 29/1510


  [Index]