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 『天守物語』 泉鏡花を読む

  舞台一方の片隅に、下の四重に通ずべき階子《はしご》の口あり。その口より、先づ一の雪洞ぼんぼり顕《あらは》れ、一廻りあたりを照す。やがて衝《つ》と翳《かざ》すとともに、丈夫、秀でたる眉に勇壮の気満つ。黒羽二重の紋着《もんつき》、萌黄《もえぎ》の袴、臘鞘《ろざや》の大小にて、姫川図書之助登場。唄をきゝつゝ低徊し、天井を仰ぎ、廻廊を窺ひ、やがて燈の影を視《み》て、やゝ驚く。次で几帳を認む。彼が入るべき方に几帳を立つ。図書は躊躇の後決然として進む。瞳を定めて、夫人の姿を認む。剣夾《つか》に手を掛け、気構へたるが、じり/\と退《さが》る。

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