検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

「私、そこへ行っても可いかい?」
 小芳が急いで縁づたいで、障子を向うへ押しながら、膝を敷居越に枕許。
 枕についた肩細く、半ば掻巻を藻脱けた姿の、空蝉《うつせみ》のあわれな胸を、痩せた手でしっかりと、浴衣に襲《かさ》ねた寝衣《ねまき》の襟の、はだかったのを切なそうに掴みながら、銀杏返しの鬢の崩れを、引結《ひきゆわ》えた頭《かしら》重げに、透通るように色の白い、鼻筋の通った顔を、がっくりと肩につけて、吻《ほっ》と今呼吸《いき》をしたのはお蔦である。

 2801/3954 2802/3954 2803/3954


  [Index]