検索結果詳細


 『薬草取』 青空文庫

 あわれ、高坂が緊乎《しっか》と留《と》めた手は徒《いたずら》に茎を掴《つか》んで、袂《たもと》は空に、美女ヶ原は咲満《さきみ》ちたまま、ゆらゆらと前へ出たように覚えて、人の姿は遠くなった。
 立って追おうとすると、岩に牡丹《ぼたん》の咲重《さきかさな》って、き象《ぞう》の大《おおい》なる頭《かしら》の如き頂《いただき》へ、雲に入《い》るよう衝《つ》と立った時、一度その鮮明《あざやか》な眉《まゆ》が見えたが、月に風なき野となんぬ。

 280/283 281/283 282/283


  [Index]