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『春昼』 泉鏡花を読む
其の頃は幽な暮しで、屋根と申した処が、あゝではありますまい。月も時雨もばらばら葺。それでも先代の親仁と言ふのが、最う唯今では亡くなりましたが、それが貴下、小作人ながら大の節倹家で、積年の望みで、地面を少しばかり借りましたのが、私庵室の背戸の地続きで、以前立派な寺がありました。其住職の隠居所の跡だつたさうにございますよ。
豆を植ゑようと、まことに恁う天気の可い、のどかな、陽炎がひら/\畔に立つ時分。
親仁殿、鍬をかついで、此の坂下へ遣つて来て、自分の借地を、先づならしかけたでございます。
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