検索結果詳細


 『五大力』 従吾所好

 縞の羽織に、すら/\と衣摺れの手応へして、我が爪尖が仄白い。
 びた/\……と又歩行き出す。
 一寸、無言の間に、小弥太は、前途〈むかう〉に未〈ま〉だ消残る其の地を這つた水明りが、一筋、路を横に拡がつた、……其処を的〈あて〉に、顔を、姿を、と思つた。が、いざうれ、それと窺ふと、物置の一ツ其の隙間が、水嵩高く、どんよりと、雨も川も小さな湖ほどに見えた。其の水面に、人の無い、大きな船が茫と浮んで、だぶん、天〈そら〉さまに舳が揺れた拍子に、川波がどつと揺れて、足駄を掬つて、ざぶりと流れた。驚く途端に、顔容〈かほかたち〉さへ、婦の片袖も何も見えぬ。

 285/1139 286/1139 287/1139


  [Index]