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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

はははは飛ぶわ飛ぶわ、南瓜畠《かぼちゃばたけ》へ潜って候《そろ》。
蟹五郎 人間の首が飛んだ状《さま》だな、気味助《きびすけ》、気味助。かッかッかッ。(と笑い)鯉七、これからどこへ行く。
鯉七 むう、ちと里方へ用がある。ところで滝を下って来た。何が、この頃の旱《ひでり》で、やれ雨が欲しい、それ水をくれろ、と百姓どもが、姫様《ひいさま》のお住居《すまい》、夜叉ヶ池のほとりへ五月蠅《うるさ》きほどに集《たか》って来《う》せる。それはまだ可《よ》い。が、何の禁厭《まじない》か知れぬまで、鉄釘《かなくぎ》、鉄火箸《かなひばし》、錆刀《さびがたな》や、破鍋《われなべ》の尻まで持込むわ。まだしもよ。お供物だと血迷っての、犬の首、猫の頭、目を剥《む》き、髯《ひげ》を動かし、舌をべらべら吐く奴を供えるわ。胡瓜《きゅうり》ならば日野川の河童《かっぱ》が噛《かじ》ろう、もっての外な、汚穢《むそ》うて汚穢うて、お腰元たちが掃除をするに手が懸《かか》って迷惑だ。

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