検索結果詳細


 『春昼』 泉鏡花を読む

 朝疾くから、出しなには寒かつたで、布子の半纏を着て居たのが、其陽気なり、働き通しぢや。親仁殿は向顱巻、大肌脱で、精々と遣つて居た処。大抵借用分の地券面だけは、仕事が済んで、是から些とほまちに山を削らうといふ料簡。づか/\山の裾を、穿りかけて居たさうでありますが、小児が呼びに来たに就いて、一服遣るべいかで、最う一鍬、すとんと入れると、急に土が軟かく、づぶ/\と柄ぐるみにむぐずり込んだで。
 づいと、引抜いた鍬について、じと/\と染んで出たのが、真な、ねば/\とした水ぢや、」
「死骸ですか、」と切込んだ。

 287/628 288/628 289/628


  [Index]