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 『国貞えがく』 青空文庫

 とはじめて親しげに名を言って、凝《じっ》と振向くと、浪の浅葱の暖簾越に、また颯と顔を赧らめた処は、どうやら、あの錦絵の中の、その、どの一人かに俤が幽《かすか》に似通う。……
 「お一つ。」
 とそこへ膳を直して銚子を取った。変れば変るもので、まだ、七八ツ九ツばかり、母が存生《ぞんしょう》の頃の雛祭には、緋の毛氈を掛けた桃桜の壇の前に、小さな蒔絵の膳に並んで、この猪口ほどな塗椀で、一緒に蜆の汁《つゆ》を替えた時は、この娘が、練物のような顔のほかは、着くるんだ花の友染で、その時分から円い背を、些《ち》と背屈《せこご》みに座る癖で、今もその通りなのが、こうまで変った。

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