検索結果詳細


 『海神別荘』 華・成田屋

僧都  紺青(こんじょう)、群青(ぐんじょう)、白群(びゃくぐん)、朱、碧(へき)の御蔵の中より、この度の儀に就きまして、先方へお遣わしになりました、品々の類(たぐい)と、数々を、念のために申上げとうござりまして。
公子  (立ちたるまま)おお、あの女の父親に遣った、陸で結納とか云うものの事か。
僧都  はあ、いや、御聡明なる若様。若様にはお覚違いでございます。彼等夥間(なかま)に結納と申すは、親々が縁を結び、媒妁人(なこうど)の手をもち、婚約の祝儀、目録を贈りますでござります。しかるにこの度は、先方の父親が、若様の御支配遊ばす、わたつみの財宝に望(のぞみ)を掛け、もうしこの念願の届くにおいては、眉目(みめ)容色(きりょう)、世に類なき一人の娘を、海底に捧げ奉る段、しかと誓いました。すなわち、彼が望みの宝をお遣しになりましたに因って、是非に及ばず、誓言(せいごん)の通り、娘を波に沈めましたのでござります。されば、お送り遊ばされた数の宝は、彼等が結納と申そうより、俗に女の身代と云うものにござりますので。

 28/369 29/369 30/369


  [Index]