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『婦系図』 青空文庫
絵のお清書をする時、硯《すずり》を洗ってくれて、そしてその晩別れたのは、ちょうど今月じゃありませんか。その時の杜若《かきつばた》なんざ、もう私、嬰児《あかんぼ》が描いたように思うんですよ。随分しばらくなんですもの、私だって逢いたいわ。」
と見る見る瞳にうるみを持ったが、活々した顔は撓《たわ》まず、声も凜々《りんりん》と冴えた。
「それですから、貴女も逢いたかろうと思ってねえ。実は私相談に来たの。もっと早くから、来よう、来ようと思ったんだけれど、極《きまり》が悪いしねえ、それに私見たようなものには逢って下さらないでしょうと思って、学校の帰りに幾度も九段まで来て止したの。
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