検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 絵のお清書をする時、硯《すずり》を洗ってくれて、そしてその晩別れたのは、ちょうど今月じゃありませんか。その時の杜若《かきつばた》なんざ、もう私、嬰児《あかんぼ》が描いたように思うんですよ。随分しばらくなんですもの、私だって逢いたいわ。」
 と見る見る瞳にうるみを持ったが、活々したは撓《たわ》まず、声も凜々《りんりん》と冴えた。
「それですから、貴女も逢いたかろうと思ってねえ。実は私相談に来たの。もっと早くから、来よう、来ようと思ったんだけれど、極《きまり》が悪いしねえ、それに私見たようなものには逢って下さらないでしょうと思って、学校の帰りに幾度も九段まで来て止したの。

 2906/3954 2907/3954 2908/3954


  [Index]