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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

鯉七 分らんの。旱は何も、姫様《ひいさま》御存じの事ではない。第一、其許《そこもと》なども知る通りよ。姫様は、それ、御縁者、白山《はくさん》の剣ヶ峰千蛇ヶ池の若旦那にあこがれて、恋し、恋しと、そればかり思詰めてましますもの、人間の旱なんぞ構っている暇があるものかッてい。
蟹五郎 神通《じんずう》広大――俺をはじめ考えるぞ。さまで思悩んでおいでなさらず、両袖で飜然《ひらり》と飛んで、疾《はや》く剣ヶ峰へおいでなさるが可《よ》いではないか。

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