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 『婦系図』 青空文庫

「理由は私にだって有りますよ。あの、過般《いつか》もお前さんに話したろう。早瀬さんと分れて、こうなる時、煙草を買え、とおっしゃって、先生の下すった、それはね、折目のつかない十円紙幣《さつ》が三枚。勿体ないから、死んだらお葬式《とむらい》に使って欲しくって、お仏壇の抽斗《ひきだし》へ紙に包んでしまってある、それを今日使いたいのよ。お嬢さんに差上げて、そして私も食べたいから、」
 とただ言うのさえ病人だけ、遺言のように果敢なく聞えた。
「ああ、そんならそうおしな。どれ、大急ぎで、いいつけよう。」

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