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『天守物語』
泉鏡花を読む
図書 それは、貴方《あなた》のものかも知れませぬ。また殿様は殿様で、御自分のものだと御意遊ばすかも知れませぬ。しかし、いずれにいたせ、私のものでないことは確《たしか》でございます。自分のものでないものを、殿様の仰せも待たずに、何《ど》うしようとも思ひませぬ。
夫人 すゞしい言葉だね、其の心なれば、此処を無事で帰られよう。私も無事に帰してあげます。
図書 冥加に存じます。
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