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 『海神別荘』 華・成田屋

公子  (色はじめて鬱す)むむ。
女  (微酔の瞼花やかに)誰も知らない命は生命ではありません。この宝玉も、この指環も、人が見ないでは、ちっとも価値(ねうち)がないのです。
公子  それは不可(いか)ん。(卓子(テエブル)を軽く打って立つ)貴方は栄燿が見せびらかしたいんだな。そりゃ不可ん。人は自己、時分で満足をせねばならん。人に価値(ねうち)をつけさせて、それに従うべきものじゃない。(近寄る)人は自分で活きれば可い、生命を保てば可い。しかも愛するものとともに活きれば、少しも不足はなかろうと思う。宝玉とてもその通り、手箱にこれを蔵すれば、宝玉そのものだけの価値を保つ。人に与うる時、十倍の光を放つ。ただ、人に見せびらかす時、その艶は黒くなり、その質は醜くなる。

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