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 『古狢』 青空文庫

 その水の光は、足許《あしもと》の地《つち》に影を映射《うつ》して、羽織の栗梅《くりうめ》が明《あかる》く澄み、袖の飛模様も千鳥に見える。見ると、やや立離れた――一段高く台を蹈《ふ》んで立った――糶売《せりうり》の親仁は、この小春日の真中《まんなか》に、しかも夕月を肩に掛けた銅像に似ていた。
「あの煙突が邪だな。」
 ここを入って行きましょうと、同伴《つれ》が言う、私設の市場の入口で、外套氏は振返って、その猪《しし》の鼻の山裾《やますそ》を仰いで言った。

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