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 『星あかり』 泉鏡花を読む

 時に大浪が、一あて推寄せたのに足を打たれて、気も上ずツて蹌踉けかゝつた。手が、砂地に引上げてある難破船の、纔かに其形を留めて居る、三十石積と見覚えのある、其の舷にかゝつて、五寸釘をヒヤ/\と掴んで、また身震をした。下駄はさつきから砂地を駈ける内に、いつの間にか脱いでしまつて、跣足である。
 何故かは知らぬが、此船にでも乗つて助からうと、片手を舷に添へて、あわたゞしく擦り上がらうとする、足が砂を離れて空にかゝり、胸が前屈みになつて、がつくり俯向いた目に、船底に銀のやうなが溜つて居るのを見た。

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