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 『日本橋』 青空文庫

 稲葉家のお孝が、そうした容体になってから、叔母とは云うが血筋ではない。父親は台湾とやら所在分らず、一人有ったが、それも亡くなった叔父の女房で、蒟蒻島で油揚の手曳をしていた。余り評判のよくない阿婆が、台所から跨込んで、帳面を控えて切盛する。其奴の間夫だか、田楽だか、頤髯の凄まじいら顔の五十男が、時々長火鉢の前に大胡坐で、右の叔母さんと対向になると、茶棚|傍の柱の下に、櫛巻の姉さんが、棒縞のおさすり着もの、黒繻子の腹合せで、襟へ突込んだ懐手、婀娜にしょんぼりと坐っているのが毎度と聞く。可哀そうに、お千世は御飯炊から拭掃除、阿婆が寝酒の酌までして、ちびりちびりと苛められる上、収入と云っては自分一人の足りない勝で、すぐにお孝の病気の手当に差響くのに気を揉んで、言い憎かろう。我が口から、

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