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 『義血侠血』 青空文庫

「私は金沢の士族だが、少し仔細があって、幼少《ちいさい》ころに家《うち》は高岡へ引っ越したのだ。そののち私一人金沢へ出て来て、ある学校へ入っているうち、阿爺《おやじ》に亡くなられて、ちょうど三年前だね、余儀なく中途で学問は廃止《やめ》さ。それから高岡へ還ってみると、その日から稼ぎ人というものがないのだ。私が母親を過ごさにゃならんのだ。何を言うにも、まだ書生中の体だろう、食うほどの芸はなし、実は弱ったね。亡父《おやじ》は馬の家じゃなかったけれど、大の所好《すき》で、馬術では藩で鳴らしたものだそうだ。それだから、私も小児《こども》の時分稽古をして、少しは所得《おぼえ》があるので、馬車会社へ住み込んで、馭者となった。それでまず活計《くらし》を立てているという、まことに愧ずかしい次第さ。しかし、私だってまさか馬方で果てる了簡でもない、目的も希望《のぞみ》もあるのだけれど、ままにならぬが浮き世かね」

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