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 『日本橋』 青空文庫

 不思議な事は、禍だか、幸だか、お孝の妹分と聞いただけで、その向きの客人は一目を置き、三舎を避けて、ただでも稲葉家では後日が、と敬遠すること、死せる孔明活ける仲達を走らすごとし。従ってちっとも出ない。その為に、阿婆の寝酒はなおあくどい。あわれがって、最惜がって、住替を勧めても、
「私が出ますと姉さんが。」
 とお孝を案じて辛抱する。その可愛さも知れている。それだのに、お千世に口の掛からない時は、宵から、これは何だ、と阿婆が茶の缶の錻力を、指で弾いて見せると云うまで、清葉は聞伝えているのであった。

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