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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

  その声が遠くなります、山の上を、薄綿で包みますように、雲が白くかかりますと、音が先へ、颯《さ》あ――とたよりない雨が、海の方へ降って来て、お声は山のうらかけて、遠くなって行きますげな。
 前刻《さっき》見た兎《う》の毛の雲じゃ、一雨来ようと思うた癖に、こりゃ心ない、荷が濡れよう、と爺《じじい》どのは駆けて戻って、ぐゎッたり車を曳出しながら、村はずれの小店から先ず声をかけて、嘉吉めを見せにやります。

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