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 『日本橋』 青空文庫

 電話さえ無い始末、内証も偲ばれる。……あの酒のみが、打切飴。それも欲い時は火のつくばかり小児になって強請るのに、買って帰ればもう忘れて、袋を見ようともしないとか。病気が病気の事であるから、誰の顔の見さかえも有るまいが、それにしても大分の無沙汰をした。……お千世のためには、内の様子も見て置きたい、と菊家へ連れようとした気を替えて、清葉はお孝を見舞いに行くのに、鮨というのも狂乱の美人、附属ものの笹の気が悪い。野暮な見立ても、萎るる人の、美しい露にもなれかしと、ここに水菓子を選んだのである。
 小屋の女房|揉手をして、
「稲葉家さんへ。ええええ、直に、お後から持たせまして。」

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