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 『古狢』 青空文庫

 路地うちに、子供たちの太鼓の音が賑《にぎ》わしい。入って見ると、裏道の角に、稲荷神《いなりがみ》の祠《ほこら》があって、幟《のぼり》が立っている。あたかも旧の初午《はつうま》の前日で、まだ人出がない。地口行燈《じぐちあんどん》があちこちに昼の影を浮かせて、飴屋《あめや》、おでん屋の出たのが、再び、気のせいか、談話中の市場を髣髴《ほうふつ》した。
 縦通りを真直《まっす》ぐに、中六《なかろく》を突切《つッき》って、左へ――女子学院の塀に添って、あれから、帰宅の途《みち》を、再び中六へ向って、順に引返《ひっかえ》すと、また向うから、容子といい、立もおなじような――これは島田髷《しまだ》の娘さんであった――十八九のが行違った。

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