検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 夫の所好《このみ》で白粉は濃いが、色は淡い。淡しとて、容色《きりょう》の劣る意味ではない。秋の花は春のと違って、艶《えん》を競い、美を誇る心が無いから、日向《ひなた》より蔭に、昼より夜、日よりも月に風情があって、あわれが深く、趣が浅いのである。
 河野病院長医学士の内室、河野家の総領娘、道子の俤はそれであった。
 どの姉妹《きょうだい》も活々して、派手に花やかで、日の光に輝いている中に、独り慎ましやかで、しとやかで、露を待ち、月にあこがるる、芙蓉は丈のびても物寂しく、さした紅も、偏《ひと》えに身躾《みだしなみ》らしく、装った衣《きぬ》も、鈴虫の宿らしい。

 3080/3954 3081/3954 3082/3954


  [Index]