検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 いつも引籠勝《ひっこもりがち》で、色も香も夫ばかりが慰むのであったが、今日は寺町の若竹座で、某《なにがし》孤児院に寄附の演劇があって、それに附属して、市の貴婦人連が、張出しの天幕《テント》を臨時の運動場にしつらえて、慈善市《バザア》を開く。謂うまでもなく草深の妹は先陣承りの飛将軍。そこでこの会のほとんど参謀長とも謂《いつ》つべき本宅の大切な親が、あいにく病気で、さしたる事ではないが、推してそういう場所へ出て、気配り心扱いをするのは、甚だ予後のために宜しからず、と医家だけに深く注意した処から、自分で進んだ次第ではなく、道子が出席することになった。――六月下旬の事なりけり。

 3082/3954 3083/3954 3084/3954


  [Index]