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 『婦系図』 青空文庫

 姉夫人は、余り馴れない会場へ一人で行くのが頼りないので、菅子を誘いに来たのであったが、静かな内へ通って見ると、妹は影も見えず、小児《こども》達も、乳母《ばあや》も書生も居ないで、長火鉢の前に主人《あるじ》の理学士がただ一人、下宿屋に居て寝坊をした時のように詰らなそうな顔をして、膳に向って新聞を読んでいた。火鉢に味噌汁の鍋《なべ》が掛って、まだそれが煮立たぬから、こうして待っているのである。
 気軽なら一番《ひとつ》威《おど》かしても見よう処、姉夫人は少し腰を屈《かが》めて、縁から差覗いた、眉の柔《やわらか》な笑を、綺麗に、小さく畳んだ手巾《ハンケチ》で半ば隠しながら、

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