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 『海神別荘』 華・成田屋

僧都  はあ、いや、御聡明なる若様。若様にはお覚違いでございます。彼等夥間(なかま)に結納と申すは、親々が縁を結び、媒妁人(なこうど)の手をもち、婚約の祝儀、目録を贈りますでござります。しかるにこの度は、先方の父親が、若様の御支配遊ばす、わたつみの財宝に望(のぞみ)を掛け、もうしこの念願の届くにおいては、眉目(みめ)容色(きりょう)、世に類なき一人の娘を、海底に捧げ奉る段、しかと誓いました。すなわち、彼が望みの宝をお遣しになりましたに因って、是非に及ばず、誓言(せいごん)の通り、娘を波に沈めましたのでござります。されば、お送り遊ばされた数の宝は、彼等が結納と申そうより、俗に女の身代と云うものにござりますので。
公子  (軽く頷く)可(よし)、何にしろすこしばかりの事を、別に知らせるには及ばんのに。
僧都  いやいや、鱗一枚、一草の空貝(うつせがい)とは申せ、僧都が承りました上は、活達なる若様、かような事はお気煩かしゅうおいでなさりましょうなれども、老のしょうがに、お耳に入れねばなりませぬ。お腰元衆もお執成(とりなし)。(五人の侍女に目遣いす)平にお聞取りを願わしゅう。

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