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 『古狢』 青空文庫

 と家内も云った。少し遠慮して、間をおいて、三人で斉《ひと》しく振返ると、一脈の紅塵《こうじん》、軽く花片《はなびら》を乗せながら、うしろ姿を送って行く。……その娘も、町の三辻の処で見返った。春闌《たけなわ》に、番町の桜は、静《しずか》である。
 家へ帰って、摩耶夫人《まやぶにん》の影像――これだと速《すみやか》に説教が出来る、先刻《さっき》の、花御堂の、あかちゃんの御ぎみ――頂餅《いただき》と華をささげたのに、香をたいて、それから記しはじめた。

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