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 『婦系図』 青空文庫

「いや、もう済んだです。」
 その日は珍らしく理学士が玄関まで送って出た。
 絹足袋の、静《しずか》な畳ざわりには、客の来たのを心着かなかった鞠子の婢《おさん》も、旦那様の踏みしだいて出る跫音に、ひょっこり台所《だいどこ》から顔を見せる。

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