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『婦系図』 青空文庫
早瀬はその時、机の前の我が座を離れて、夫人の背後《うしろ》に突立《つった》っていたので、上下《うえした》に顔を見合わせた。余り騒がれたためか、内気な夫人の顔《かんばせ》は、瞼に色を染めたのである。
と、早瀬は人間が変ったほど、落着いて座に返って、徐《おもむろ》に巻莨《まきたばこ》を取って、まだ吸いつけないで、ぴたりと片手を膝に支いた、肩が聳えた。
「夫人《おくさん》、貴女はこれから慈善市《じぜんし》へいらしって、貧者《びんぼうにん》のためにお働きなさるんですねえ。」
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