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 『高野聖』 泉鏡花を読む

「さあ、然うやつて何時の間にやら現とも無しに、恁う、其の不思議な、結構な薫のする暖い花の中へ柔かに包まれて、足、腰、手、肩、頸から次第に天窓まで一面に被つたから吃驚、石に尻餅を搗いて、足を水の中に投げ出したから落ちたと思ふ途端に、女の手が背後から肩越しに胸をおさへたので確りつかまつた。
(貴僧、お傍に居て汗臭うはござんせぬかい、飛んだ暑がりなんでございますから、恁うやつて居りましても恁麼でございますよ。)といふ胸にある手を取つたのを、慌てて放して棒のやうに立つた。

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