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 『夜行巡査』 青空文庫

 渠は前途に向かいて着眼の鋭く、細かに、きびしきほど、背後《うしろ》には全く放心せるもののごとし。いかにとなれば背後はすでにいったんわが眼に検察して、異状なしと認めてこれを放免したるものなればなり。
 兇徒あり、刃を揮いて背後《うしろ》より渠を刺さんか、巡査はその呼吸《いき》の根の留まらんまでは、背後《うしろ》に人あるということに、思いいたることはなかるべし。他なし、渠はおのが眼の観察の一度達したるところには、たとい藕糸《ぐうし》の孔中といえども一点の懸念をだに遺しおかざるを信ずるによれり。

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