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 『婦系図』 青空文庫

 早瀬はちょっと言《ことば》を切って……夫人がその時、わななきつつ持つ手を落して、膝の上に飜然《ひらり》と一葉、半紙に書いた女文字。その玉章《たまずさ》の中には、恐ろしい毒薬が塗籠《ぬりこ》んででもあったように、真蒼《まっさお》になって、白襟にあわれ口紅の色も薄れて、頤深く差入れた、俤を屹と視て、
「……などと云う言《ことば》だけも、貴女方のお耳へ入れられる筈のものじゃありません、けれども、差迫った場合ですから、繕って申上げる暇《いとま》もありません。
 で、そのために貴女がおできなすったんで、まだお腹《はら》にいらっしゃる間には、貴女の母様《おっかさん》が水にもしようか、という考えから、土地に居ては、何かにつけて人目があると、以前、母様をお育て申した乳母が美濃安八《あはち》の者で、――唯今島山さんの玄関に居る書生は孫だそうです。そこへ始末をしに行ってお在《いで》なすった間に、貞造へお遣わしなすったお手紙なんです。

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