検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 朝晩お顔を見ていちゃ、またどんな不了簡《ふりょうけん》が起るまいものでもない、という遠慮と、それに肺病の出る身体《からだ》、若い内から僂麻質《リョウマチス》があったそうで。旁々《かたがた》お邸を出るとなると、力業《ちからわざ》は出来ず、そうかと云って、その時分はまだ達者だった、阿母《おふくろ》を一人養わなければならないもんですから、奥さんが手切《てぎれ》なり心着《こころづけ》なり下すった幾干《いくら》かの金子《かね》を資本《もとで》にして、初めは浅間の額堂裏へ、大弓場を出したそうです。
 幸い商売が的に当って、どうにか食って行かれる見込みのついた処で、女房を持ったんですがね。いや、罰《ばち》は覿面《てきめん》だ。境内へ多時《しばらく》かかっていた、見世物師と密通《くッつ》いて、有金を攫《さら》って遁げたんです。しかも貴女、女房が孕《はら》んでいたと云うじゃありませんか。」

 3208/3954 3209/3954 3210/3954


  [Index]