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 『縁結び』 青空文庫

 辿《たど》る姿は、松にかくれ、草にあらわれ、坂に沈《しず》み、峰に浮んで、その峰つづきを畝々《うねうね》と、漆のようなのと、真蒼《まさお》なると、赭《しゃ》のごときと、中にも雪を頂いた、雲いろいろの遠山《とおやま》に添うて、ここに射返《いかえ》されたようなお君《きみ》の色。やがて傘《かさ》一つ、山の端《は》に大《おおき》な蕈《くさびら》のようになった時、二人はその、さす方の、庚申堂《こうしんどう》へ着いたのである。
 と不思議な事には、堂の正面へ向った時、仁右衛門は掛金はないが開けて入るように、と心着けたのに、雨戸は両方へ開いていた。お君は後《のち》に、御様《おっかさん》がそうしておいたのだ、と言ったが、知らず堂守の思違《おもいちが》いであったろう。

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