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『婦系図』
青空文庫
菅子はもうそこに、袖を軽く坐っていたが、露の汗の悩ましげに、朱鷺色縮緬の上〆《うわじめ》の端を寛《ゆる》めた、辺《あたり》は昼顔の盛りのようで、明《あかる》い部屋に白々地《あからさま》な、衣《きぬ》ばかりが冷《すず》しい蔭。
「久振だわね。」
「久振じゃないじゃありませんか。今の言種《いいぐさ》は何です、ありゃ。……姉さんにお気の毒で、傍《そば》で聞いていられやしない。」
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