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 『日本橋』 青空文庫

 お若の身は火消壺、蛍ばかりに消え残った、可哀に美しく凄い瞳に、自分のを直して着せた滝縞お召の寝々衣を着た男と、……不断じめのまだ残る、袱紗帯を、あろう事か、〆めるはまだしも、しゃら解けさして、四十歳宿場の遊女どの、紅入友染の長襦袢。やっぱり、勝手に拝借ものを、垂々と見せた立膝で、長火鉢の前にさしむかいになった形を、世に有るものとも思わなかった、地獄の絵かと視めながら、涙の暗闇のみだれ髪、はらはらとかかる白い手の、掴んだ拳に俯伏せに、魂は枕を離れたのである。
 が、姿は雨に、月の朧に、髪の横櫛、頸白く、色の蹴出し、蓮葉に捌く裾に揺れて、蒼白く燃える中に、いつも素足の吾妻下駄。うしろ向になって露地口を、カラカラと踏んで、五つばかり聞えてフッと消える。

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