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 『歌行燈』 従吾所好

「然うさ、如何に伊勢の浜荻だつて、按摩の箱屋と云ふのはなからう。私もなからうとは思ふが、今向う側を何とか屋の新妓とか云ふのが、からんころんと通るのを、何心なく見送ると、あの、一軒おき二軒おきの、軒行燈では浅葱になり、月影では青くなつて、薄い紫の座敷着で、褄を蹴出さず、ひつそりと、い襟を俯向いて、足の運びも進まないやうに何んとなく悄れて行く。……其の後から、鼠色の影法師。女の影なら月に地〈つち〉を這ふ筈だに、寒い道陸神が、のそ/\と四五尺離れた処を、ずつと前方〈むかう〉まで附添つたんだ。腰附、肩附、歩行く振、捏(で)つちて附着〈くツつ〉けたやうな不恰好な天窓の工合、何う見ても按摩だね、盲人らしい、めんない千鳥よ。……私あ何んだ、だから、按摩が箱屋をすると云つちや可笑い、盲目に成つた箱屋かも知れないぜ。」

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