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 『義血侠血』 青空文庫

 車夫は必死となりて、やわか後《おく》れじと焦れども、馬車はさながら月を負いたる自家《おのれ》の影のごとく、一歩を進むるごとに一歩を進めて、追えども追えども先んじがたく、ようよう力衰え、息逼りて、今や殪《たお》れぬべく覚ゆるころ、高岡より一里を隔つる立野《たての》の駅に来たりぬ。
 この街道の車夫は組合を設けて、建場建場に連絡を通ずるがゆえに、今この車夫が馬車に後《おく》れて、喘ぎ喘ぎ走るを見るより、そこに客待ちせる夥間《なかま》の一人は、手に唾して躍り出で、

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