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 『縁結び』 青空文庫

 が謙造の用は、ちっともそこいらにはなかったので。
 前へ入って、その休息所の真暗な中を、板戸漏《も》る明《あかり》を見当に、がたびしと立働いて、町に向いた方の雨戸をあけた。
 横手にも窓があって、そこをあけると今の、その雪をいただいた山が氷《こおり》を削《けず》ったような裾を、紅、緑、紫の山でつつまれた根まで見える、見晴の絶景ながら、窓の下がすぐ、ばらばらと墓であるから、また怯《おび》えようと、それは閉めたままでおいたのである。

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