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 『婦系図』 青空文庫

 ほんとうに串戯《じょうだん》ではないわ! 一家の浮沈と云ったような場合ですからね。私もどんなに苦労だか知れないんだもの。御覧なさい、痩せたでしょう。この頃じゃ、こちらに、どんな事でもあるように、島山(理学士)を見ると、もうね、身体《からだ》が萎《すく》むような事があるわ。土間へ駈下りて靴の紐を解いたり結んだりしてやってるじゃありませんか。
 跪《ひざまず》いて、夫の足に接吻《キッス》をする位なものよ。誰がさせるの、早瀬さん。――貴下の意地ひとつじゃありませんか。
 ちっとは察して、肯いてくれたって、満更罰は当るまいと、私思うんですがね。」

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